チーム紹介

Wet

皆さんは「実験」という言葉にどんな印象を受けるでしょうか?
おそらく多くの人が試験管やフラスコを振ったり混ぜたりしている光景を思い描く人が多いのではないでしょうか。

しかし、合成生物学は、非常に学際的な分野である為、遺伝子工学に加えて数理生物学、バイオインフォマティクスの知見も必要になる学問です。そのため、合成生物学の「実験」は実際に試験管に触れる”Wet実験”と、ソフトウェアを用いた解析実験などの”Dry実験”に分けることができます。

Wetと呼ばれる活動分野は、試験管の中で、微生物やDNA分子に対して行う生命科学実験のことです。私が思いつくWet実験を箇条書きで上げてみます。

I. 遺伝子の設計・酵素を用いたDNAの切り貼り
II. 遺伝子組み換えDNAを微生物に導入実験
III. 遺伝子組み換え体の培養実験
IV. 微生物を利用して合成されたタンパク質の分析・利用

I. 遺伝子の設計・酵素を用いたDNAの切り貼り

合成生物学や遺伝子工学はその名の通り、遺伝子を改変して新たなシステムを構築しようとする学問です。 望む生物システムを実現するために、私たちは

「望む生物システム」→「必要な遺伝子群の特定」→「遺伝子の並びの順序」→「微生物に導入可能な形に設計」

の順序を踏んで、遺伝子の設計を行っていきます。弊チームの中でもWetの分担ですが、Wetのメンバーはこの時ばかりはPC上のSoft Ware “Snap Gene®”とにらめっこになります。

遺伝子設計ソフトウェア Snap Gene®の作業画面
Fig.1-1 遺伝子設計ソフトウェア Snap Gene®の作業画面

次に、こうして設計できたDNA分子を実際に合成します。市販されている遺伝子工学用の制限酵素を用い、望む遺伝子分子を実装していきます。

II. 遺伝子組み換えDNAを微生物に導入実験

さて、目的の遺伝子パーツが合成されましたが、この部品が実際に動くか確かめなければなりません。Wasedaチームではモデル微生物として、大腸菌を用いています。大腸菌にこの遺伝子パーツを導入して何が起こるか記録します。

蛍光を持つように遺伝子を改変した大腸菌抽出液
Fig.1-2 蛍光を持つように遺伝子を改変した大腸菌抽出液
実験の様子
Fig.1-3 実験の様子

III. 遺伝子組み換え体の培養実験

遺伝子パーツの機能性が確認出来たら、次は効率的な産生が必要です。
幸い、N匹の微生物は、培養を経ることで、その数をN×2n匹にすることができます。この微生物の増殖能を利用して遺伝子パーツやタンパク質の増産をすることができます。

遺伝子パーツluxRおよびタンパク質LuxRの増産のイメージ図
Fig.1-4 遺伝子パーツluxRおよびタンパク質LuxRの増産のイメージ図

IV. 微生物を利用して合成されたタンパク質の分析・利用

タンパク質とは、生物の部品といえる重要な分子です。白米は口に含んで1分くらい噛んでいると甘くなりますが、これは生き物が生きる上で、アミラーゼと呼ばれるタンパク質が口腔の細胞が分泌しているためです。筋肉が働くためにもタンパク質は必要ですし、神経を伝達する経路にもタンパク質が多く関しています。

合成生物学により目的のタンパク質ができたら、その性能を試さなければいけません。産生できたタンパク質が望み通りの機能を持っているかどうかを確かめます。

世界初の成果としてiGEM Waseda_Tokyoが合成生物学で女性ホルモンProgesteroneを検知した様子
Fig.1-5 世界初の成果としてiGEM Waseda_Tokyoが合成生物学で女性ホルモンProgesteroneを検知した様子

現在、iGEM Waseda_Tokyoは早稲田大学と東京女子医科大学の共同研究施設である「TWIns;東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設」(Tokyo Women’s Medical University-Waseda University Joint Institution for Advanced Biomedical Sciences)という施設でWet実験を行っています。

Twinsの前での集合写真
Fig.1-6 Twinsの前での集合写真

このWetの活動には多くの資金が必要になります。研究室の維持のために係る支出だけでなく、実験のために必要な試薬の購入には、学生だけでは賄いきれない支出があります。

私たちはこれからもWet実験を行い、合成生物学による新たな技術の創生を目指して参ります。私たちの活動に興味がある方・支援を希望する方がいらっしゃいましたらよろしくお願い申し上げます。

Dry

iGEMでは、Wet Labと呼ばれる生物実験を行う部門の他に、Dry Labと呼ばれるコンピューターシミュレーションを行う部門もあります。Dryでは、合成生物学の知識を生かして、生物系の知識だけでなく、情報処理やデータ解析などのスキルが求められます。

Modeling

Modelingとは、Dry Labの中でコンピューターシミュレーションを行う分野のことを指します。以下の項目でModelingの一般的な流れを説明します。

キーワード:#数理生物学 #バイオ×プログラミング #微分方程式 #シミュレーション #機械学習 #Alphafold #Python #R #MATLAB

1. 人工遺伝子回路の構築

iGEMのプロジェクトでは、目的の化学物質を生成するために人工遺伝子回路を構築する必要があります。人工遺伝子回路とは、生物内部の遺伝子やタンパク質の働きを模倣した、合成的な遺伝子回路のことです。人工遺伝子回路は、転写因子やプロモーター、レポーター遺伝子などの要素から構成されます。転写因子は、遺伝子発現を調節するためのタンパク質で、プロモーターは転写因子が結合する場所で、レポーター遺伝子は、遺伝子発現の結果を可視化するための遺伝子です。これらの要素はオープンソースのパーツとしてiGEM運営が管理しており、実際に発注し実験することができます。また、人工遺伝子回路は単純な活性化、抑制だけでなく、AND回路、OR回路などの論理回路を作成することもできます。以下の図はiGEM 2022で構築したプロゲステロンとエストロゲンの波形を検出する人工遺伝子回路です。

2. pythonによる微分方程式のシミュレーション

人工遺伝子回路が想定した挙動をするか、コンピューターシミュレーションを通して検証する必要があります。そのためには、まず以下のような微分方程式を立てます。この式は、ヒルの式ミカエリス・メンテン式をもとに立てられます。

次に、プログラミングで上記の微分方程式を解きます。言語はPython, R, MATLABなどが一般的です。 以下の図は上記の微分方程式を解いた結果です。

3. その他のシミュレーション

上記で紹介したのは最も一般的な例です。これ以外にも、Alphafoldを利用したタンパク質立体構造予測、ロジスティクス方程式やセルオートマトンを利用したシミュレーションなど様々なものがあります。

Software

Softwareとは、Dry Labの中でソフトウェア開発を行う分野のことを指します。その用途は主に、シミュレーションしやすくためのGUIまたはCUIツール(Modeling関連)、合成生物普及のためのアプリやゲーム(Education関連)、ハードウェア操作用のツール(Hardware関連)などがあります。以下3つの例を紹介します。

キーワード: #アプリ開発 #ゲーム開発 #Unity #Python

1. Toggle Switch Simulator

iGEM Waseda 2020で開発した微分方程式のパラメータを直感的に操作できる教育ツールです。
リンク: https://tomoino.github.io/education-tool/

2. BiosensorPuzzle

iGEM Waseda 2022で開発したバイオセンサー検出の仕組みを表したゲームです。
リンク: https://bishopfunc.github.io/BiosensorPuzzle/

3. Genochemy

iGEM UTokyo 2022が開発した遺伝子回路を直感的に組み立てて仕組みを理解することができる教育ツールです。iGEM Waseda 2022のメンバーはグラフ描画機能の開発の一部に貢献しました。
リンク: https://genochemy.netlify.app/

Hardware

Hardwareとは、Dry Labの中でハードウェア開発を行う分野のことを指します。iGEM 2022では、自宅でも使えるホルモン検出デバイスを提案しました。Hardwareの製作は3Dモデリング班と電子工作班に分けられます。

キーワード: #電子工作 #マイコン #ものづくり #3Dプリンター

CADによる3Dモデリング

iGEM 2022では、CADでモデルを設計し、3Dプリンターで出力しました。

マイコンによる制御部の製作

iGEM 2022は制御部の開発が間に合いませんでしたが、次年度ではデバイスにより実現性をもたせるため、制御部もしっかり設計していきたいと考えています。サークルの経費で必要なパーツを購入でき、事業化レベルのハードウェア開発に携われます。電子工作やものづくりに興味ある方はぜひ入会ご検討ください。

Measurement

Measurementとは、Dry Labの中で実験結果の測定に関する分野のことを指します。iGEMチームによる成果は将来のチームやコミュニティ全体で使用できます。これを実現するには適切な測定が不可欠です。優れた測定が科学の進歩つながると考えています。単純に実験を行うだけでなく、適切なデータの視覚化、統計分析のスキルが求められます。

キーワード: #データ可視化 #標準化 #統計

以下が代表的なMeasurementプロジェクトの例です。

  • iGEM Partsの厳密な特性評価
  • 測定対象の革新
  • DNAリーディング技術の革新
  • データのコラボレーションと共有

参考:

Dry・情報系人材大募集!!
バイオ×プログラミング

Human Practice

HumanPracticeという活動分野では、合成生物学やiGEMの普及や自分たちのチームのプロジェクトに対して理解やフィードバックを得ることを目的とした活動を行います。
具体的には、小中高生に講義を行うEducationやプロジェクトの改良を目指して専門家の方にインタビューを行う、などといった活動が挙げられます。また、国内外のiGEMチームとのコラボレーションなどもHumanPracticeの一環です。日本にはiGEM Japan Communityという、日本のiGEMチームのコミュニティがあり、定期的にMeetupを開催しています。
私たち、iGEM Waseda_Tokyo チームが実際に行ったHuman Practiceの活動をいくつか紹介します。

高校講義

2022年度には、早稲田大学の付属高校で出張講義を行いました。テーマは合成生物学を用いてSDGsの解決するためにはどうしたらいいか考えるというものでした。はじめて、合成生物学について知る高校生にどのようにしたらより興味を持って理解してもらえるのかを、準備段階から模索した甲斐あって、実学的な授業で分かりやすかったなどといった声をいただくことができました。

高校講義の集合写真
高校講義の集合写真
高校講義の様子
高校講義の様子

小学校講義

合成生物学をより幅広い世代に普及するため、小学生に向け合成生物学やバイオテクノロジーに関する講義も行いました。『生き物改造サイエンス』というテーマで、小学生でも分かりやすくするため、具体例を用いて説明するなどの工夫を凝らした授業を行うことができました。

小学校講義の様子
小学校講義の様子

専門家へのインタビュー

自分たちの考案したプロジェクトが、実際に社会で有用なものとなりうるのか、より良いものとするためにはどうしたらいいのかを確かめるため、プロジェクトに関連のある分野の専門家にインタビューを行います。2022年度では、不妊治療に関するプロジェクトを行っていたため、産婦人科医の方や不妊治療の当事者の方にお話を伺いました。インタビューを通してプロジェクトに関する新たな知識の獲得や新たな課題の発見などを行うことができ、プロジェクトの改良につなげることができました。

Japan Meetup

iGEM Japan Communityでは定期的にMeetupを開催するなどして、日本国内のiGEMチームの密な連携を図っています。Meetupでは、互いに自分のチームのプロジェクト発表に関して発表を行い、それに関して意見交換を行うなど、積極的な交流を通して互いに切磋琢磨することができます。

Japan Meetupのポスター
Japan Meetupのポスター
Japan Meetupのポスター
Japan Meetupの様子

Wiki・Video・Illustrator

Wiki班

Wikiとは、そのチームのプロジェクトを説明するホームページのことです。プレゼンテーションだけでなく、wikiを通しても審査員にプロジェクトを評価してもらうため、プロジェクトが評価基準を満たしていることを文章などや図で目一杯アピールします。プロジェクト概要、wet、dry、humanpracticeなど、そのチームの活動内容が全て盛り込まれています。wikiの作成には主に、wikiのコーディングを行うフロントエンド班とwikiのデザインを行うデザイン班が関わっています。

キーワード: #Web制作 #HTML #CSS #JavaScript #Vue #React #Figma #Adobe XD #Illustrator

  • フロントエンド班
    実際に プログラミングをしてwikiを作成しています。CSSやHTMLといったプログラミング言語を用いて、各班が作成したwikiの原稿をホームページ上にあげてゆきます。コードするだけでなく、デザイン班と連携をとって、wiki全体のデザインを考えながら進めてゆきます。

  • デザイン班
    主にWikiのデザインに関する仕事を行っています。wikiや大会本番のプレゼンテーションに使うイラストを作成するilusuration班と、大会で提出するプロモーションビデオや私たちの活動に関連した動画を作成するvideo班の2つに分かれています。どちらもプロジェクトの内容のしっかり理解した上で、他の班と連携を取り合って活動しています!

illustration班

Illustratorというアプリを使ってイラストを作成しています。wiki班と協力して、wiki全体の配色や構造などのデザインを決めたり、wet班やdry班、video班などから依頼のあったイラストを作成しています。特に大会期間には、video班やwiki班と連携しながらwikiやプロモーションビデオの統一感を持たせます。また2022年では、色覚多様性を意識し、どの色覚の人でもわかりやすいデザインを取り入れました。

video班

主にRushやPremia Proというアプリを用いてビデオを作成しています。昨年は、大会で提出するプロモーションビデオと、ホルモンプロジェクトに関連して、生理の仕組みについての教育ビデオの2つを作成しました。

イラストにアニメーションをつけるだけでなく、絵コンテや台本、ナレーションまで全てvideo班が作成しています。動画の編集だけでなく、動画の構成を作ってみたい方、ナレーションをやってみたい方も活躍できます。

フロントエンド班、デザイン班メンバー大募集中!
未経験でも大歓迎!
一緒にwikiをつくりあげてみませんか!!