合成生物学とは、生物学、工学、情報科学などの学問分野を統合し、生物のシステムや機能を理解し、人工的に設計・合成することを目的とした新しい研究分野です。遺伝子工学やシステム生物学の発展により、生命現象のモデリングや制御が可能になり、生命現象のデザインや工学的応用が可能になりました。合成生物学では、生物内に存在する遺伝子を切り貼りしたり、新しい遺伝子を作り出したりすることで、人工的に生物を設計・合成します。例えば、光からエネルギーを得ることでタンパク質を合成する人工細胞を作り出す研究もあります。(Berhanu. et al, 2019)
また、合成生物学の応用分野は多岐にわたっており、医療・健康分野、環境分野、エネルギー分野、食品生産分野などに及びます。例えば、食品生産分野では、クリーンミートと呼ばれる培養肉が合成生物学的手法により生産されることが知られています。また、環境分野では、微生物を利用した有害物質の検出なども行うことができます。実際に、iGEM Wasedaも 2022 年度のプロジェクトでは物質の検出系の構築をメインに取り組んでいました。その他にも、様々な分野に応用がなされています。
このように、合成生物学の研究は遺伝子工学やシステム生物学の発展によって加速されることが期待されています。これにより、より多くの新しい生物の設計や合成が可能となり、先ほど紹介したような医療や環境分野などでの応用が進むことが期待されます。しかし、人工的な遺伝子などが万が一外部に流出してしまった場合、予測不能な危険にさらされる可能性も否定できません。そのため、これらの応用技術が実用化されるにあたっては、安全性や倫理的問題、社会的影響などについても十分に考慮し、対応することが求められています。
参考 :
Berhanu, S., Ueda, T. & Kuruma, Y. Artificial photosynthetic cell producing energy for protein synthesis. Nat Commun 10, 1325 (2019)